tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

架空賢者の名言 スーパーヒーローを育てた“心のビタミン” 【その11】

変身せよ、スペクトルマン。もう、猶予はない。公害人間を殺せ。お前の数秒のためらいが、数十万の人々の生命にかかわるのだ。変身せよ、スペクトルマン

(ネビュラ71 『宇宙猿人ゴリ』に登場)

 

 1971年に放送開始された「宇宙猿人ゴリ」(ピープロ)に登場するスーパーヒーロー「スペクトルマン」は、現場の判断でバンバン変身するウルトラマンとは違って、離れたところにいる上司からの、その都度の命令がないと変身できません。まわりくどいようですが、そこがこの作品の味わいにもなっていると、僕は思います。

 上司は「ネビュラ71」と呼ばれる宇宙ステーションにいて、地球上での怪獣出現を感知すると、スペクトルマンに告ぐ。ただちに変身せよ!」という指令を出します。

 超能力のサイボーグであるスペクトルマンは「了解!」と言って変身。巨大化して怪獣と戦います。なお、上司の命令は絶対で、逆らえばスペクトルマンは解体されてしまう規則になっています。スペクトルマンは宇宙における「公務員」なのです。

 

 「恐怖の公害人間」というエピソードでは、地球征服を狙う宇宙の帝王・猿人ゴリが、たけしちゃんという男の子と、その両親を誘拐します。そして、親子を猛毒の病原菌の保菌者にしてしまうのです。

 たけしちゃん一家は、自分ではそれと知らずに病原菌をばらまく。菌は猛スピードで日本と世界に広がり、壊滅的な被害を出すというのが、ゴリの陰謀なのでした。

 

 ネビュラはスペクトルマンに命じます。

 それは、非情とも言える指令。

 

「あの3人の親子を殺せ。彼らによって公害伝染病が地球上に蔓延すれば、たちどころに人類は絶滅の危機に遭うであろう。繰り返す、殺せ」

 

「できない!」。何の罪もないたけしちゃん一家を殺せと命じられたスペクトルマンは苦悩します。しかし、命令に従わなければ人類は滅亡してしまう。さあ、スペクトルマン、どうする? 

 

 (この後、ネタバレです)

 

 悩みながらもスペクトルマンは親子を殺そうとしますが、決意はにぶり、どうしてもできません。ぎりぎりのところで彼が思いついた方法は、必殺のビーム兵器「スペクトルフラッシュ」の成分と出力を変えて、親子の体に浴びせるという選択肢でした。

 

 その結果、病原菌だけが殺菌され、親子は無事。人類も救われたのです。

 

 たけしちゃん一家を救いたいスペクトルマンと、人類を生かすためには一家を犠牲にするのはやむを得ないという結論を即座に出してくる非情なネビュラ。

 

いったい、どちらが正しいのでしょうか?

 

 難しい問題です。

 歴史上の人物で、そういう問題に直面した人がいます。

 第2次大戦時、イギリスの宰相チャーチルは、「ドイツがイギリスのコベントリーという町を空爆する」という情報を暗号解読によって事前に得ていながら、迎撃を命じませんでした。ドイツの暗号をイギリス側が解読できているという事実を敵に悟らせないためです。その重大な事実を秘匿しておき、ここぞという時にドイツ軍に打撃を与えるための決断でした。

 

 判断としては、そうするしかないのでしょう。

 最終的にドイツはイギリス侵攻を断念していますから。

 でも、チャーチルが一定数の人々を見殺しにしたのは事実です。コベントリーは壊滅的な被害を受けました。

 組織のトップに立つ人は、そういう決断から逃げられないところがあります。

 

 これは「100匹の羊がいて、1匹が迷子になった場合、どうする?」という問題でもあるかもしれません。

 

 辺りにはオオカミがうろついています。

 迷子の1匹は、とてもかわいそうです。

こんなとき、「残りの99匹を放っておいても1匹を探しに行く」人と、「残り99匹を危険にさらすわけにはいかない」と判断し、「1匹を見捨てる」人とがいます。

 

 どちらが正しく、どちらが間違いとは簡単に言えません。

 

 まあ、99匹を、いったん安全な囲いの中に入れ、信頼できる人に見張りを頼むなどした後で、迷った1匹を探しに出かけたらどうかなと思います。

 

 「理性」のネビュラ、「情」のスペクトルマン

 

 何かの決断が必要なとき、ネビュラのような大局的で理性的な目を持ちつつ、スペクトルマンのように、人情味があり、できるだけのことをする。

 そんな僕たちでありたいなと、この話を観て感じました。