ふつうの子に、ドラえもんがやってきたら、超能力をえたら、という、読者のみなさんがいつも夢見ていることを、かわりに演じさせているのです。
(藤子・F・不二雄『藤子・F・不二雄のまんが技法』小学館文庫)
国民的人気まんが『ドラえもん』の作者である藤子・F・不二雄先生は、まんがを書いてみようと思う人たちのために、入門書を書いてくれています。
藤子先生が勧めているのは、「どこでもドア」ならぬ「どこでもまんがノート」。
まんがを描くためのノートを持ち歩き、いろんなものを見て、毎日かく。すると、確実に絵が上達していくのだそうです。
「まんが」の勉強は、「映画」の勉強でもあると言う藤子先生は、子ども時代から映画が大好きで、映画館の暗闇のなかで、手元の「まんがノート」に名場面をスケッチしたり、名セリフをメモしたりしていたそうです。そういうものが素材となって、数々の藤子漫画が生まれたのですね。藤子先生は20世紀の人ですが、21世紀の現在は映画館に行かなくても、ネット上で様々な映画が見られる時代です。こういう地道な作業の積み重ねをしていると、「量」が「質」に変わるときがきます。
漫画家は絵がうまいだけでなく、原作者が付く場合を除けば、お話も考えなくてはならないため、「物語を思いつく発想法」が大事になってきます。そういう方法を、藤子先生は本書で紹介されているんです。
たとえば、「願望をアイデアに生かす方法」。
『ドラえもん』の主人公・のび太は、どこにでもいるような少年です。その少年のところに、願いをかなえてくれる「ひみつ道具」を出すロボットがやってきたら……というのが『ドラえもん』です。ごくふつうの、ちょっぴりおっちょこちょいの女の子が、超能力を持ってしまったら……というのが『エスパー魔美』。
「比喩を使う方法」もあります。
比喩とは「たとえ」です。女性は花にたとえられることがありますが、これを「きれいな少女が花になってしまったら……」などと、ふくらませていくのです。
機械的にアイデアを生み出す技法としては、「○○が✖✖と△△する」というフレームで考える方法があります。記号のところに意外性のあるできごとや人物をはめ込むと、なかなか楽しい話ができる。
そのほか、「誇張して考える方法」や「逆転してみる方法」も紹介されています。
さらに、この本で心に残ったのは、次の言葉です。
◇なにか自分だけの世界を、最低ひとつは持っているべきなのです。
人気まんが家は、多くの人々の気持ちがわかる「普通の人」であるべきですが、一方で、自分の世界を持っている必要があり、そうすると新鮮なものが描けるのです。
藤子先生は「恐竜が大好き」という一面がありました。『ドラえもん』映画の第1作『のび太の恐竜』には、先生の恐竜好きの面が存分に反映されています。ほかにも、「SF」「ホビー」などに関心が深かったようです。
藤子先生の『まんが技法』は、小説家やシナリオライターなどを目指す人にも参考になる名著だと思います。
今では信じがたいことですが、無名だった投稿時代を振り返って藤子先生は「自信と劣等感の間をゆれ動いていた」「こんなことで、ほんとうに先行きいいのかな、などと考える、それこそつらい毎日だった」と述べておられます。
その藤子先生が、自身の長年の体験から、こう言い切っているのが印象的でした。
◇かけばかくほど次々とアイディアは出てくるものです。
この言葉を信じて、がんばりたいものですね。