本書の担当編集者に「森沢さん、そこまで教えちゃっていいんですか?」とまじめに心配されたほどです(笑)。
僕は高校で国語を教えています。もし、教え子が「先生、どうしても小説家になりたいんです。何か良い参考書はないですか?」と訊いてきたら、この森沢先生の本を勧めます。
森沢先生によると、「ほとんどの小説は、登場するキャラクターの心の上がり下がりを描くことで表現される成長物語」です。これは、他の創作ハウツー本でも説かれていることではありますが、大事なことでしょう。
◇「面白い物語」の基本は「主人公の成長物語」である。
プロットは、最初は3行で大丈夫だと森沢先生は言います。
【1】こういう主人公が
【2】こういう難題を乗り越えて
【3】こういう人へと成長する
【1】【2】【3】に「具体的な肉付け」をして、どんどん長くしていくのです。
小説家は、まずキャラクターを不幸にしなければならない。
「善良な少年が、鬼に家族を惨殺され、妹を鬼に変えられてしまう。妹を人間に戻すため、修行を積み、多くの鬼と戦いながら、正義の剣士として人間的に成長する。」
これが『鬼滅の刃』のあらすじです。
小説に盛り込むべき「難題」や「不幸」は、人々の人生の中に転がっています。
身近な人に、人生でいちばん苦しかった時のことを教えてもらい、それをどうやって乗り越えたのかをきけば、物語のタネを、結論まで教えてもらえます。そこに自分なりの脚色を加えて、小説に盛り込めばOK。また、友人知人に話を聞く以外にも、SNSに投稿されている誰かの「リアルな悩みごと」を見て回る方法もあります。そこに、ネタの原石があるのです。
新聞の片隅に載った事件記事をもとに、想像を膨らませて書くことを勧めているプロの作家さんもいます。小さな記事なら、世間のほとんどの人が知りませんから新鮮味があります。しかも、もとが実話なので、リアリティもあるわけです。
そして、森沢先生によると、まったくつながりのない複数の人が持っている悩みの話を、ミックスしてみるのもあり、というのです。
たとえば、「職員室でパワハラに遭っている若い女教師の話」に、それとは別人の「先生に恋をした男子生徒の話」をミックスしたらどうでしょう?
主人公の女性教師は、生徒を導く立場にあるわけで、男子生徒と恋仲になるなど絶対にありえないし、あってはならない。しかし、上司のパワハラに困り果て、疲れ切っているときに、ある生徒の問題行動を指導することになった。妙に大人びた雰囲気の生徒に、心の隙間から言葉があふれ出し、普段とは違う行動をとっている自分に気づく……などという展開もあるかもしれません。
男子生徒の抱える家庭の事情として、これまた別人の「両親の離婚に苦しんだ話」を活用することだってできますね。
こんなふうなことを、森沢先生は説いているのです。
これ以外にも、小説を書くうえで、「この手があったか」と思うような技法やコツを、これでもかと公開してくれている本なのです。
自分も小説を書いてみたいという気持ちにさせてくれるので、一読をおススメします。