風見、お前の気持ちはよく分かる。しかし、個人の復讐のために力は貸せない。
(本郷猛 『仮面ライダーV3』に登場)
「許さんぞ、カメバズーカ! お前には、この東京を壊させん!」
ライダー1号は叫んだ。
「フハハ、俺様の体には原爆が入っているのだ。あとわずかで爆発する。倒せるものなら、倒してみろ!」
怪人カメバズーカは、せせら笑った。
昭和の「仮面ライダー」シリーズ中屈指の傑作回といえば、1973年に放映された『仮面ライダーV3』(毎日放送)の第1話と2話の前・後編だと、僕は言いたい。
そのあらすじを僕なりに要約して説明すると、
仮面ライダー1号・本郷猛と、同2号・一文字隼人の活躍で、悪の組織ショッカーは滅び、平和が訪れた。だが、それもつかの間、突如出現した暗黒組織デストロン。同組織の送り込んだ怪人カメバズーカは、1号・2号が力を合わせても苦戦するほどの強敵であった。しかも、体内には核兵器が入っており、東京壊滅までの時間は、あとわずか!
まるで最終回のような展開です。ちなみにカメバズーカは、「背中にバズーカ砲を背負ったカメ」という姿であり、凶悪なくせに、けっこうカワイイです。
『仮面ライダーV3』の主人公は風見志郎。彼は先輩である本郷と一文字を慕っていますが、両親と妹をデストロンに殺されてしまいます。その後、本郷と一文字が仮面ライダーであることを知った風見は、復讐心にかられ、本郷たちに「俺を改造人間にしてくれ」と頼みます。
その時に本郷が風見に言ったのが、冒頭のセリフです。
一文字隼人は、こう付け加えます。
「改造人間は私たち二人だけでいい。人間でありながら人間でない、その苦しみは、私たち二人だけで十分なんだ」
「改造人間であることの苦しみを風見には味わわせたくない」という優しい気持ちから、改造を拒んだのです。
(ここから『仮面ライダーV3』2話のネタバレを含みます)
その後、1号と2号はデストロンの基地を発見します。しかし、そこには罠が仕掛けられていました。「改造人間分解光線」を照射されて苦しむダブルライダー。あと10秒で全身が分解する絶体絶命のピンチ!
そこに飛び込んできたのが風見でした。風見のおかげでライダーは危機を脱しますが、生身の体で光線を浴びた風見は瀕死の重傷を負ってしまいます。
「風見は死を覚悟で私たちを助けた。死なせたくない!」
「とすれば、方法は一つ」
1号と2号は風見に改造手術を施します。
そして誕生したのが、仮面ライダーV3なのです。
「子供番組は幼稚だ」という先入観が僕らにはありますが、必ずしもそうでない場合もあると思います。仮面ライダーにしても、「ちゃんとした大人が、真剣に作っているな」ということが、先輩ライダーが風見志郎を「改造した理由」からも分かります。
風見が復讐のために改造を願った時、ライダーは断っています。
しかし、風見が正義のために自己犠牲の行動に出たときに、ライダーは風見を改造しました(「そうしなければ風見が死んでしまう」という理由もありましたが)。
「個人の復讐」とは、別の言葉で言えば「私憤」です。
デストロンの罠からライダーを救おうとしたのは「公憤」です。
「個人的な怒りにかられて戦うべきではない。しかし、社会を脅かす悪に対しては、公共の正義を守るため、戦わなければならない」という倫理観が、本郷猛のセリフから読み取れるのではないでしょうか。
全国の学校で弱い者いじめが横行していますが、僕たち大人は子どもたちに、「善悪とは何か」ということを教えたいです。その意味で、仮面ライダーやウルトラマン、スーパー戦隊のような勧善懲悪の物語には、教育効果もあるのかもしれません。
さて、カメバズーカの体内の原爆はどうなったか?
ライダー1号・2号が怪人を両脇から抱きかかえて空へとジャンプ、ジェット噴射のような形で飛びながら海の彼方に怪人を運び、そこで大爆発。
ダブルライダーの捨て身の活躍により、東京は壊滅を免れました。生死不明の先輩ライダーの後を継いだのが、風見志郎すなわち仮面ライダーV3。
デストロンとの激しい戦いの日々が始まったのです。