tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

架空賢者の名言 スーパーヒーローを育てた“心のビタミン” 【その26】

いいかフリーレン。歴史に名を残そうなんて考えるなよ。目立たず生きろ。お前が歴史に名を残すのは、魔王をぶっ殺すときだ。

(フランメ師匠  『葬送のフリーレン』に登場)

 

 昔、エルフの集落が魔族に襲われた。魔族は集落のエルフたちを女子供も皆殺しにした。若き魔法使いフリーレンは奮戦し、魔王軍の将軍の一人を倒したが、仲間たちを守ることができなかった。

 そんなフリーレンを助け、弟子としたのが大魔法使いフランメである。美しき女性であり、魔法の天才であったフランメも、かつて、魔族にすべてを奪われていたのだ。

 魔族は、弱肉強食の過酷な魔族社会での序列を上げるため、己の魔力を誇示するのが常だ。隠密行動のため一時的に魔力を消すことはあっても、基本的に魔力を隠さない。しかしフランメは、自己の魔力を常に制限し、隠していた。魔族に自分をザコだと認識させ、強大な魔力を不意打ちで発動して倒すのだ。

 

 その方法をフランメは愛弟子フリーレンに叩き込んだ。魔力を高める修業を積みながら、同時に己の魔力を四六時中制限し、周囲に強者だと悟らせない修行。長命なエルフであるフリーレンは、フランメの死後も修行を続ける。師の言葉を守り、やがてくる魔王との対決のため、一生をかけて魔族を欺くのだ。

 

 荒唐無稽なファンタジー世界のお話だけれど、フランメ&フリーレンの生き方は、しびれるほどかっこいいと僕は思います。

 

 今はあまり読む人もいないかもしれませんが、文豪・吉川英治先生の小説、『宮本武蔵』には、武者修行のために槍術で知られる宝蔵院を訪れた武蔵が、裏の畑で農作業をしていた老僧に、すごい殺気を感じて飛びのいたエピソードが出ています。老僧は、おぬしは強すぎると言って武蔵をほめるが、それに続けて「もっと弱くならにゃいかん」と言う。

 おぬしがものすごい殺気を出しながら歩いてくるものだから、ワシは心で身構えた。それが伝わって、おぬしは飛んだ。つまり、おぬし自身の殺気が反射して、おぬしは飛びのいたのだ。すさまじく強くて傲慢な宝蔵院の荒法師・阿巌(あごん)を瞬殺した武蔵だったが、真の達人である老僧・日観の「もっと弱くなれ」という言葉に、自身の未熟を感じるのだった。

 

 客室乗務員をしていた女性が、「中途半端なお客様は、乗務員を相手に、よく怒っていた」という趣旨のことを述べていました。本当に偉いお客様は、逆に怒らない。超VIPのお客様は、むしろ目立たず、穏やかだったと。

 

 中途半端に勉強した人は、知識を見せびらかす。

 本当に賢い人は謙虚で、穏やか。

 

 「静かに行く者は遠くまで行く」

 

 ギラギラの殺気を振りまき、「すごいだろう!」と自慢する人は、つまらないイザコザのなかで消えていく。

 志を胸に秘め、気配を消してひたむきに歩み続ける人は大成する。

 そんな気がするのです。

 ヒンメルにスカウトされ、勇者一行に加わったフリーレンが、みごと魔王討伐の悲願を果たしたように。

 

 

 フランメ役の声優・田中敦子さんのご冥福をお祈りします。