tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

架空賢者の名言 スーパーヒーローを育てた“心のビタミン” 【その5】

「もし、魔法であれを撃ち抜くことができたら、フェルンは一人前です」

(僧侶ハイター 『葬送のフリーレン』に登場)

 

 人気漫画『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人 作画:アベツカサ 少年サンデーコミックス)には、ハイターという老人が出てきます。

 彼は、かつて、勇者ヒンメル・戦士アイゼン・魔法使いフリーレンとともに魔王を倒し、世界を救ったパーティーの一員でした。晩年は、フェルンという戦災孤児の女の子を保護し、実の娘のように愛情を注いでいます。

 ハイターの本職は僧侶であり、魔法使いではないのですが、老い先短い自分の死後、フェルンが一人で生きていけるようにと、魔法の修行をさせました。

 ハイターは、修行場近くの崖の向こう側にある、大きな岩を指して、「あの一番岩を打ちぬけば一人前になれる」と話します。ちなみに、冒頭にかかげたハイターの言葉は、物語本編には描かれていないストーリーを補完した公式の前日譚『小説 葬送のフリーレン ー前奏ー』(著:八目 迷)からの引用です。

 フェルンはハイターの言うとおりに大岩を狙って杖の先から魔法を発射しますが、岩に届く前に魔法の光は霧散してしまい、うまくいきません。

 

「ハイター様。どうすればもっと遠くまで魔法を飛ばせるようになるのでしょうか」とたずねるフェルンに、師のハイターは、

 

「基礎はできているので、今のところは反復練習ですね。とにかく繰り返しましょう。そうすれば飛距離は伸びます」

 

 こうアドバイスしました。

 日々、熱心に練習に励むフェルン。

 ハイターは、

 

「フェルンは魔法使いの素質がありますね。将来はきっとすごい魔法使いになれますよ」

 

 こんなふうに励ますのでした。

 こういう師弟関係って、いいなあと思います。

 後にハイターの家を訪れた大魔法使いフリーレンの指導によって、フェルンの才能は大きく開花し、本作のスーパーヒロインとなっていきます。

 ですが、それ以前の段階ですでに、フェルンの「卓越した魔力の操作技術」にフリーレンは舌を巻いています(『葬送のフリーレン』第2話「僧侶の嘘」)。これは、ハイターが優れた指導者であったことの証左でしょう。

 

 ハイターの教え方で、うまいなあと思うのは、まず、目標を明示していること。

 「とにかくがんばれ」ではなく、「あの一番岩を打ち抜け」と具体的に示しているところです。

 教わる側のフェルンにとっては、「何をもって成功と言えるのか」が明確になります。以前、ある学校の陸上部が、走り高跳びで、飛び越えるバーがある場合とない場合とで結果がどのように違うのか実験してみたそうです。結果は、バーがあるほうが、良い記録が出たという話があります。

 英語の勉強でも、「とにかくたくさんの単語を覚えろ」と言うよりも、「英単語は、1000語ぐらい覚えるたびに、学力のランクがひとつ、ドンと上がるんだよ」と教えたほうが、やる気が出るのではないでしょうか。

 

 目標を明示し、反復練習をうながし、ほめてあげる。

 

 それと、晩年のハイターって、言葉がとても丁寧で、きれいですね。

 フェルンも常に敬語を使っています。

 ふつうは敬語というと、心に距離がある場合に使われる傾向がありますが、ハイターとフェルンの場合はそうではない。お互いを尊敬し尊重しているのが分かり、ほほえましい気持ちになります。

 「上から目線で押し付けるスパルタ特訓」がすべてではない。なんか「愛情に裏打ちされた教育というのがあってもいいんだ」という感じがするのです。