tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

架空賢者の名言 スーパーヒーローを育てた“心のビタミン” 【その4】

「これしきで満足するほど 武の道は甘くないぞよ! ほんとうの修業はこれからはじまるんじゃ」

武天老師 『ドラゴンボール』に登場)

 

 武天老師って誰、って感じだけど、「亀仙人」のほうが分かりやすいと思います。でも、そもそも、この人は「賢者」なんだろうか?

 「賢者」とは「道理に通じたかしこい人」(辞書)です。このブログで言う「架空賢者」とは「主人公に修行を積ませ、大切なアドバイスをくれる存在」というふうな意味です。

 亀仙人は世界的人気漫画『ドラゴンボール』の初期から登場するキャラクターで、禿頭で白いアゴヒゲをはやしたお爺さん。手には杖をついています。格好は賢者ふうなのですが、サングラスとアロハシャツを着用しているのが異色ですね。

 それだけならいいのですが、ジャンプコミックスによると、悟空のために筋斗雲を出したとき、

 

「この筋斗雲は 清い心をもっていないと のることはできん! つまり、よいこでなくてはダメということじゃ! どれ、わしが見本をみせてやろう」

 

 こう言って乗ろうとして、スポッと地面に落ちて腰を打ってしまう。やっぱり、いかがわしい本や水着グラビアに夢中なスケベジジイなのが敗因でしょう。

 威厳のある老賢者というより、おちゃめなお爺ちゃんキャラですね。

 でも、弟子の悟空とクリリンには、しっかりとした教育をほどこしています。

 悟空たちには、亀仙人の課す修業の意味が分かりません。

 えんえんと続く階段を上ったり、恐竜に追いかけられながら牛乳配達をしたり、素手で畑をたがやしたりするのです。

 しかし、亀仙人の修業の成果は、すさまじいものでした。いつの間にか、ものすごい力がついており、国じゅうから武術の達人ばかりを集めて催される「天下一武道会」で優勝しうるレベルまでいってしまったのですから。

 しかし、この時、亀仙人はトレードマークのサングラスをはずし、カツラをかぶって変装、謎の武道家ジャッキー・チュン」(けっこう、イケオジです)となって、悟空たちに内緒で武道会に出場します。

 その結果(この後、天下一武道会についてのネタバレが含まれますのでご注意)、

 

 準決勝でクリリンを破り、決勝で(そうとう苦戦はしたものの)悟空を破って優勝します。

 なぜ、わざわざ愛弟子の勝利を阻止したのか。

 そこには亀仙人の深慮がありました。

 ここで悟空やクリリンが、かんたんに優勝してしまったらどうなるか。

 

おちょうしにのって、これからのさまざまな人生の修業にも身がはいらんじゃろ…

やつらには もっともっとすばらしい大きな武道家になってほしい!

 

 こう考えて、「このひろい世には 上には上がたくさんいるもんじゃとおしえるため」に、自ら大会に出場したのでした。

 「前途ある若者が慢心して天狗にならぬように」という弟子たちへの愛があったのですね。

 亀仙人の教育方針の正しさは、悟空が後に対決するピッコロ大魔王やベジータフリーザなど、とんでもない強敵たちのことを考えれば分かります。亀仙人の教育がなかったら、地球は滅びていたわけです(いや、繰り返しますけど、僕にも物語と現実の区別ぐらいついていますよ?)。

 

 天狗になってしまうと、人はもう、それ以上の向上がない。

 

 これは、マンガの世界だけでなく現実の人生でも言えることでしょう。

 かんたんにできあがってしまうことがあるとしたら、目標が低いのかもしれない。

 ちょっと成功しただけで、もう天下を取ったような気持ちになる。

 でも、そういうときは、より高い目標、何年もかけても実現できるかどうかわからないような遠大な目標を持ってみるといいのではないかな、と思います。

 

 亀仙人は悟空を「どうじゃ わしの家にこんか? 修業しだいでは おまえ このわしをぬけるかもしれんぞ」と言って勧誘しました。

 その言葉通り、悟空は強敵との死闘を経て、亀仙人をはるかに超える高みに上っていきました。

 でも、強さでは師匠を追い抜いても、悟空はいつまでも、武天老師を尊敬しつづけています。