tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

架空賢者の名言 スーパーヒーローを育てた“心のビタミン” 【その16】

見事だな。しかし小僧、自分の力で勝ったのではないぞ。そのモビルスーツの性能のおかげだということを忘れるな!

ランバ・ラル大尉 『機動戦士ガンダム』に登場

 

 「尊敬できる敵」というのがいます。「機動戦士ガンダム」(1979年・日本サンライズ)に登場するランバ・ラル大尉も、その典型でしょう。

 「ガンダム」は根強い人気を誇るロボットアニメのシリーズですが、その第1作「機動戦士ガンダム」は、それまでのロボットアニメとは大きく違っていました。

 「マジンガーZ」に代表されるロボットアニメは、「世界征服を企む悪の組織が送り込んだ怪獣やロボットに正義の味方が立ち向かう」という明快な物語。ところが、「ガンダム」ではリアルな「戦争」が描かれます。

 巨大ロボット(モビルスーツガンダムは、「地球連邦軍」に所属しており、主人公、アムロ・レイが乗り込み、敵「ジオン軍」と戦う兵器です。

 ジオンは地球連邦に対して独立戦争を仕掛けてきます。

 ジオンはどちらかというと全体主義独裁国家風に描かれているので、いちおう「悪玉」なのでしょうが、連邦にもジオンにもそれぞれの「事情」や「言い分」があり、「どちらが正義」とは言いきれません。主題歌では「正義の怒りをぶつけろ」と歌っていながら、スッパリとは割り切れない、大人の雰囲気のドラマです。

 

 話をラル大尉に戻しましょう。

 仲間と離れて単独行動をしていたアムロは、さびれた街の酒場で食事をしていました。そこに部下を連れてやってきたのがジオン軍に所属する歴戦の勇士ランバ・ラル大尉。彼はアムロを見て、「いい目をしているな」と言い、彼が連邦軍の少年兵であることを見抜きながら、見逃してくれます。「戦場で会ったら、こうはいかんぞ。がんばれよ、アムロ君!」という言葉には年少者への愛が感じられます。

 

 戦場では鬼神さながらの暴れかたをするラルですが、愛妻家でもあり、部下への責任感と思いやりにあふれる頼れる上官であり、敵に対しても武士道をもって接する「男の中の男」というべき人物なのです。

 

 やがてラルは、グフという名の新鋭モビルスーツに乗り、アムロたちのいる連邦軍の移動要塞「ホワイトベース」を強襲します。アムロの仲間たちが乗っているモビルスーツを次々と圧倒していくラル。そこにアムロの乗るガンダムが駆け付け、グフとガンダムの一騎打ちが始まります。

 

 激しく斬り結ぶ2体のモビルスーツ

 

剣豪同士の決闘もかくやというバトルの中、グフとガンダムの装甲が裂けて互いのコックピットが露わになり、搭乗者の顔が見えました。

 

「お前は、さっきの坊やか! アムロとか言ったな」と、驚くラル。

わずかな差で勝利したアムロに対して、グフの機体から脱出しながらラルは、冒頭の言葉を放ったのです。

 勝利はしたものの、このときのアムロは、「ガンダムをいちばん上手に扱えるのは自分だ」という自負心から、勝手な行動をとることが多く、仲間たちを困らせており、もう一段の心の成長が望まれている時期でした。アムロの心に、ラルの戒めが染みわたっていきます。

 現実の世界でも、アムロのように才能に満ちた人はいるでしょう。

その人が活躍したことで、何かがうまくいき、賞をとったり、人々から称賛されたりすることもあるでしょう。

 がんばったのは事実であり、誇りに思ってもいいのかもしれません。

 しかし、そのときに「これはすべて自分の力なのだ。自分は他の人たちとはできがちがうのだ」とふんぞりかえってしまったら、その人の成長は、そこで止まります。

 

 逆に、「これは自分だけの力ではない。周囲の人たちがお膳立てしてくれて、その上、さまざまな巡り合わせもうまく行って、こういう良い結果がいただけたのだ。ありがたい」と思って、感謝と恩返しの気持ちを胸に、さらに努力していく人は成長します。

 その人がどういう気持ちでいるかということは、周囲の人には何となく伝わるものです。特に部下は、上司の利己的性向には敏感です。

 

 「成功したときに謙虚な気持ちでいると、その成功が続いていく」のではないでしょうか。