tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

架空賢者の名言 スーパーヒーローを育てた“心のビタミン” 【その33】ヴィルヘルム・ヴァン・アストレア

私に剣の才能はありません。もしもそれがあるなら、私はきっと これほど剣を握り続けてこれなかったでしょう。ですから、スバル殿もなろうと思えば私と同じところに辿り着くことは可能です。

(ヴィルヘルム 『Re:ゼロから始める異世界生活5』に登場)

 

 引きこもりの高校生ナツキ・スバルは、ある日突然、中世ヨーロッパ風の異世界に来てしまう。異世界ファンタジーでは主人公に特別な能力が付与されるのがお約束。だが、スバルには何の力も与えられなかった。召喚早々、路地裏でチンピラ3人組に襲われたスバルは、危機一髪のところを銀髪の少女エミリアに助けられる。その恩を返す名目で彼女の物探しに強力するスバルだったが、無くし物の手がかりがようやくつかめた頃、スバルと少女は何者かに襲撃され、殺されてしまう…。ところが、ふと気づくと、スバルは生きており、初めて異世界召喚された場所にいた。スバルに与えられた唯一の権能、それは、死んだら時を巻き戻して生き返る「死に戻り」の力だった。

 

 『Re:ゼロから始める異世界生活』(リゼロ)は、こんな感じの物語です。スバルは身体的には頑丈ですが、普通の人間でしかありません。しかし彼は、剣と魔法が支配する過酷な異世界で悲惨な目に遭い続けながらも、死に戻るたびに前回の失敗を反省し、反省を突破口にして、できうるかぎり多くの人々を死の運命から救おうと、徒手空拳であがくのです。

 

 小説の第5巻では、スバルにとって師匠ともいうべき老紳士・ヴィルヘルムから、冒頭の言葉が投げかけられます。ヴィルヘルムは、「剣鬼」の異名を持つ、この異世界で最高レベルの剣士であり、若き日の活躍が吟遊詩人によって語られているほどの人物です。彼はスバルの剣の才能を「凡人止まり」と指摘しますが、そのうえで、スバルに対して、頑張れば自分と同じ高みに登れるのだと励ましてくれたのです。

 どれぐらい頑張れば? と問うスバルに、ヴィルヘルムはあっさりと答えます。

 

「半生を剣を振り続けることに捧げればよいだけです」と。

 

 スバルの権能と目的から言えば、剣術だけに何十年も割くことはできません。しかし、ヴィルヘルムは自身の言葉どおり特別な「加護」(リゼロの世界でいう魔法的才能)を持たなかったにもかかわらず、半生を捧げて剣術を磨き、肉体を鍛え上げてきた人物です。スバルはヴィルヘルムから「才能」と「努力」の関係について、大切なことを学んだのではないかなあと、僕は思うのです。

 

 現実の世界でも、すごい成果を上げている「あこがれの人」は数多くいます。僕たちは「自分もあんなふうになれたらなあ」と思うことはあるけれども、実際にその人たちが重ねてきた努力について考えてみることは、あまりないかもしれません。

 

 でも、一流作家になった人も、10年間の無名時代、ひたすら本を読み、自分で自分を励ましながら、印刷されるあてなど絶無の原稿を毎日書き続けていたかもしれない。

 

 才能の違いはあるにしても、熱意をもって努力すれば、自分に許された範囲内で、一流に向かって近づいていけます。しかし、僕らは、たいていの場合、一流という結果だけは真似たいが、努力の部分は真似たくない。

 

 ほんとうに嘆くべきは、「才能がないこと」ではなく、「熱意がないこと」なのかもしれませんね。