一枚一枚はただのメモにすぎないが、一〇〇枚とか二〇〇枚のものをきちんと組み合わせると、一つの流れができあがる。あとはそれにそって書くだけだ。
(『メモの技術』中野不二男 新潮選書)
ノンフィクション作家の中野先生は、このように述べています。
文章は、料理と同じで、材料がないと書けません。
食材集めに相当するのが、「取材」「調査」という仕入れ作業です。
誰かに話を聞いてメモしたり、本を読んで「これは使えそう」と思ったことを書いておきます。
料理の下ごしらえにあたるのが、「分類」「整理」です。
1冊のノートに時系列で何でも書いておくのもいいと思いますが、できればルーズリーフノートやカードなどを利用して、テーマ別に整理された個人用データベースを作っておくといいですね。カットした野菜を袋に入れ、肉を調味料といっしょに容器に入れて冷蔵庫に入れるというようなことをしておくと、調理がとても楽になるのと同じです。
ただし、分類のための分類にならないようにしたいものです。図書館の分類のようなことに労力を費やすのは本末転倒。一見、その分野と関係のない別分野の情報が役立つこともあるので、たとえば「お金」「健康」「勉強法」といった大雑把な関心領域で分けるぐらいでいいと思います。
ひじょうに絞り込んだテーマで知識を集積していくと、すごいものになる場合があります。
たとえば、あなたがミステリーが好きだとすると、推理もの、探偵ものの小説を読むたびに、その小説に描かれたトリックをカードにメモしていくのです。
10冊、20冊と読むうちに、犯人の使うトリックに詳しくなってきて、100冊とか200冊も読めば、面白いエッセイが書けるかもしれません。もちろん、特定の推理小説の題名を挙げて「犯人は一見気弱に見えるアルバイトの女の子だ」というようなネタバレをしてはダメだ(これは絶対にやめましょうね)けれども、そういうことを上手に避けながら、「密室トリックの代表的10パターン」について論じたりすると読者には興味深いかもしれません。もちろん、自分がミステリー作家になろうという場合にも、そういうトリックを何百種類も知っていたら大きな強みです。たしか江戸川乱歩先生は、そういう研究をなさっていたようです。
メモと、その保存を習慣化し、かんたんに使える自分なりのデータベースをつくることが大事でしょう。
また、商売の心得や、偉人の言葉、愛読書の抜粋など、つねに持ち歩きたいメモがあれば、書いた紙をパウチにしておくと、痛まず、いつまでもはっきりと読むことができます。
(読者の皆様へ)これからも、いつも連載している「架空賢者の名言」の合間に、しろうとの方が作家デビューをするための方策について論じたエッセイを挟み込んでいく予定です。