tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

作家になりたい人へ プロデビュー26の秘密 【その15】映画の大量視聴

 まず心を耕さないといけない。

 (藤田和日郎『読者ハ読ムナ(笑)』小学館

 

 『うしおととら』などで知られる藤田先生は人気漫画家であると同時に、アシスタントを次々にプロデビューさせてきた方です。『烈火の炎』の安西信行先生、『美鳥の日々』の井上和郎先生、『ムシブギョー』の福田宏先生、『金色のガッシュ‼』の雷句誠先生といった、アニメ化された人気漫画の作者たちは藤田先生の元アシスタントです。ほかにもプロとして活躍している人がいます。

 藤田先生は、どんな魔法を使っているんでしょうか?

 その秘密を余すところなく公開したのが本書です。

 僕なりに理解した秘密の第一は、「アシスタントに対して教育者のような愛情を持っておられること」でしょう。「アシスタントであるキミと仕事しながらしゃべっていても楽しいけど、外に出ていって漫画家やってるキミとしゃべれるようになったときが、一番楽しいんだからな」。こう藤田先生は考えているのです。

 秘密の第二は、「仕事中に映画を見て、感想を言い合うこと」。見るのは藤田氏おすすめの作品だったり、アシスタントが好きな作品だったりします。もちろん漫画を描く作業と同時並行なので、耳で聴きながらチラチラと見る。でも面白い場面では、みんなの手が止まってしまうこともあるそう。そして、1本の映画が終わると同時に、みんなで映画の評価を言い合うのです。アシスタントは週4日ぐらい仕事場に通うから、年間では、すごい量の映画を見ることになるわけですね。しかも、「この場面はこうしたらもっと面白くなるはず」などと語り合うわけですから、漫画家として即戦力になるために必要な「物語づくりの引き出し」ができていく。漫画家というのは、原作者を付けでもしないかぎり、「絵がうまい」というだけではなれません。自分でストーリーを考え付くためには、映画を通じて大量のセリフと絵をインプットすることが大事なんですね。

 秘密の第三は、「新人が描いて持ち込んだ作品を編集者からボロボロに酷評されても、藤田先生や仲間が支えてくれること」です。たとえば、新人が編集者に「お前は女の子と付き合ったことがないだろう。お前の書く女の子は魅力がない」と言われたら、藤田先生は、こんなふうにアドバイスするのです。「編集者が言わんとしていることは、キャラクターの掘り下げ、具体的なエピソードのあるある感だ。ほかの映画や小説で十分勉強できること。キミが女の子と付き合ったことがないのは、しかたないでしょ? 体験がないから描けないなんて言ってたら、おれは妖怪退治なんかしたことないけど、妖怪退治漫画で20何年食ってんだから」と。

 編集者から作品を否定されたときは、反論しないでいいから「確認」しろ、と藤田先生は言います。「かっこいいやつが戦って、負けもしないで最後まで勝つから面白くない。一回負けさせろということですよね」などということを確認し、次回は、その部分を改善したものを編集者に見せればいいのだと。

 いやあ、漫画家になるのは大変ですね。

 でも、正しい方向性で頑張れば道は開けるのも事実。

 藤田先生は言います。うちの仕事場から出た漫画家に「天才なんてひとりもいなかった。みんな自分の中にある、ほんのちょっとの才能を一生懸命大切に大切に育てて、それで、ものになったんだよ」と。

 小説家やエッセイストになりたい人も、本や映画を大量にインプットしましょう。そして、書いたものを応募する。結果的に酷評されても、それを「改善のための提案」と受け止めて、もっと良い作品をつくろうではありませんか。僕はこの本を読んで、そう言われているように感じました。