ノートに残すことで、本のエッセンスを記憶に定着させることができるのです。
(苫野一徳『未来のきみを変える読書術』筑摩書房)
苫野さんは哲学者。
いくつもの有名出版社から著書を出している方です。
若者向けに書かれた『未来のきみを変える読書術』では、読書の大切さを力説しておられます。
「読書は僕たちをグーグルマップにする」のだと。
大量に読書の経験を積んでいくと、衛星から地上を見おろしたように、「どの道をどう通っていけば、自分の望む地点に到達できるか、おもしろいくらいに見えてくる」というのです。
いま、本屋さんに行くと「異世界もの」の小説や漫画が数えきれないほどあることに気づきます。中規模以上の本屋さんには、異世界本専用の棚ができています。
読んでみると、「冒険者」が地下の迷宮に降り、さまざまなモンスターと戦いながら、迷宮の最下層にいる親玉モンスターに挑む設定の話も多いです。その中には「迷宮のどこにどんな敵がいて、ここに罠がある。近道はこれだ」ということが察知でき、頭の中に迷宮の地図を描ける「マッピング」という特殊能力を持つ冒険者が出てくる作品もあります。
本をたくさん読むと、「マッピング」のように、頭の中に「近道を書いた地図」を描けるようになるのです。
でも、本というものは読んでしばらくすると、大半の内容を忘れてしまいます。よほどの記憶力を持つ人でないかぎり、これは仕方ないことです。
そこで活躍するのが、ノート。
大学の准教授である苫野さんの手元には、「数千冊分」の本のレジュメがあり、これを研究や執筆に駆使しているそうです。レジュメをデータ化としてネット上にも保存し、出先でもタブレットやスマホの画面で見られるようにしているとか。
これは、すごい武器です。
苫野さんは非常に詳細なレジュメを作るそうですが、大学の研究者ではない僕らであれば、もっと簡単なものでいいでしょう。
僕のやっている方法をご紹介します。
まず、本を読みながら、「これは」と思ったページの端を折り曲げます。
折り曲げ部分が犬の耳に似ているところから、「ドッグイヤー」と呼ばれています。
本を最後まで読み終わったら、ドッグイヤーのついたページだけを見て、とくに気に入ったフレーズだけをノートに書き写すんです。
僕は、これを20年以上続けていますが、ものを書く時に常に参考にしています。
書きためたノート、これこそが財産だと思います。
たしかに少々の手間はかかりますが、本から得た知恵を長く保存できるメリットは、物書きにとって、計り知れません。