「読書家を名乗るなら、せめて千冊は読んでからにしてください」(文月葵)
(青季ふゆ『本嫌いの俺が、図書室の魔女に恋をした』主婦と生活社)
「ハードルあげすぎじゃないの?」と感じる人も多いかもしれませんが、安心してください、小説の登場人物のセリフです。
僕は高校の国語教員なので、授業の最初に必ず「本の紹介」をしています。ドストエフスキーの『罪と罰』のような重たい本から、主に中高生向けに書かれたライトノベルまで、いろんな本を取り上げています。
『本嫌いの俺が、図書室の魔女に恋をした』のあらすじをご紹介しましょう。
スマホは見るが本なんて1冊も読まない、クラスでは明るく社交的なグループに属する高校生・清水奏太が主人公。彼はある日、友人に勧められた漫画を買うために訪れた書店で、アルバイト中のクラスメイト・文月葵に会います。葵は学校では人付き合いを完全に拒絶、放課後は毎日図書室にこもって読書に没頭する暗い感じの女子でした。しかし奏太は店員としての葵に「おススメの本」を尋ねたことをきっかけに、葵が本当は優しく面倒見の良い子であることを知ります。葵の推薦する本を少しずつ読破していくなかで2人の距離が縮まっていく、というお話です。葵は基本的に奏太には手厳しい言い方しかしませんが、ゆっくりと態度が軟化していくのが、この小説の読みどころです。
僕がなぜ今回、この本を取り上げたかと言いますと、葵の言う「千冊」というのは、すぐには無理かもしれないけれど、長期的な目標としては1つの目安になるだろうと思うからです。
ここではいちおう、漫画以外の「活字の本」ということにしておきたいと思いますが、いろんな分野の書物を1000冊ぐらい読むと、知が確立してきて、「自分なりの意見」が出せるようになるということが言われています。このレベルになると、新聞やネット上のいろんな言説を見ても「これは、ちょっと違うのではないかな」という独自の視点が打ち出せるようになるのです。
そして、2000冊のラインを突破すると、こんどは知を職業にできるようになってきます。思想家や言論人、文筆家などとして自分の考えを発表し、世の中に影響を与える感じになってきます。
「2000冊読むと自分で書き始める」というのは、ライトノベルであってもそうです。『本嫌いの俺が』の「あとがき」によると、作者の青季ふゆ先生は中高6年間、ライトノベルにはまり込み、休日や休み時間はもちろんのこと、授業中にも読むなどして、「最低でも一日一冊」は読んでいたとのことです(でも、良い子の皆さんは授業中には読まないでね)。
1日1冊として6年間では、365×6=2190冊。
ほぼ2000冊です。すると大学に入ってから自分で小説を書くようになったそうで、今ではライトノベル作家になっているわけです。
他にも新人のライトノベル作家さんで、「蔵書がライトノベルばかり2000冊」という人のことを新聞で読んだことがあります。
もちろん、1000冊、2000冊の読書なんて簡単ではありません。
でも、週に1冊、確実に読んでいくなら、年52冊なので、20年で到達できます。
がんばって週2冊なら10年で1000冊。
おススメの方法は「自分が今何冊読んでいるのかを数えること」です。
僕の場合は本を1冊読み終えると、ノートに本の題名と番号を付けます。
過去に読んだ本の冊数は分からないので、数え始めた時を起点にしました。
たとえば、『カラフル』という本を読み終えたら、ノートに1行、
『カラフル』[1]
と書きます。
何日か経って、こんどは『陽だまりの彼女』という小説を読み終えたら、次の行に、
『陽だまりの彼女』[2]
と記入します。
こうやってシンプルに「題名」と「累計読破数」を記録するだけで、不思議なことに読書意欲が高まるのです。読破数は増えることはあっても減ることはないので、見返すと自信につながる効果があるようです。
ビジネス書では、成果の「見える化」を勧めていますが、題名だけの読書記録も、簡単な「見える化」ですね。
ちなみに、僕が今述べたようなことをスマホで管理できるアプリもあるそうです。人によっては、その方が便利かもしれません。