tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

作家になりたい人へ プロデビュー26の秘密 【その23】空想して書く

 本書でご紹介するのは、小説家で「食べていく」のではなく「儲けて富を得る」方法です。

 (松岡圭祐『小説家になって億を稼ごう』新潮新書

 

 いやもう、ちょっと引いてしまうぐらいドギツイ言い方ですが、実際、著者の松岡先生は『万能鑑定士Q』『高校事変』などのミリオンセラーをいくつも出しています。現実に年収が億を超えている「富豪作家」なのです。

 どうすれば、そんな小説が書けるのでしょうか。この本のなかで松岡先生は「秘伝」とも言うべき方法を公開してくれています。

 それは、「想造」という技法です。

 私なりに要約すると、「何人かの俳優の写真を印刷し、そこに名前・職業・特技・性格といったプロフィールを書き添え、壁に貼っておく」というやり方です。そして、人物の行動を空想する。無理に物語を作ろうとせず、何日もかけてイメージしていく。すると、登場人物たちの人間関係に波乱が生じるので、波乱を乗り越えるすべを、人物たちといっしょに考えよう、というのです。

 ほんとにそれで優れた小説が書けるのかと疑問に思う人も多いでしょう。天才作家の松岡先生だからこそできるのだろうと。確かに、誰もが億を稼ぐ作家になれるわけではないでしょう。しかし、この技法の有効性が、ある大学で次々と実証されていることを知りました。

 ウェブサイト「日藝ラプラス」の記事によると、日本大学藝術学部文藝学科の青木敬士先生は、ゼミの学生たちに「適当に自分の好きなキャラクターの絵を7枚ぐらい印刷して壁に貼り、その『見た目だけ』を利用して、その人物がどんな人物かを自分勝手に書きかえていく」方法を勧めているそうです。

 その際、「最初から彼ら7人の関係性やストーリーを絶対に考えない」で「あくまでも一人ひとりを考えていく」ことを勧めているというのです。すると、自然に「この人とこの人が、こんなシチュエーションで一緒にいたら、こんな会話が生まれるかも?」という発想が浮かぶ。それをどんどん転がしていくと、小説が書けるのだそうのです。これは「ミステリ作家の松岡圭祐さんも勧めている方法ですが」とことわったうえで、青木先生は、上記のように説明しています。

 その結果、何が起きたか。青木ゼミからは2020年、『サンタクロースを殺した。そしてキスをした』という小説で小学館ライトノベル大賞優秀賞を受賞して犬君雀さんがデビューしました。2022年には『スター・シェイカー』でハヤカワSFコンテスト大賞、『きみは雪をみることができない』でメディアワークス文庫賞というダブル受賞で人間六度さんがデビューを果たします。しかも同年、『完璧な佐古さんは僕みたいになりたい』で山賀塩太郎さんがファンタジア大賞銀賞を受賞してデビューしたのです。

 「教え子がメジャーな賞を受賞してデビューする」なんて、1人出るだけでもすごいことですよね。それが立て続けに3人。青木先生の指導力と生徒の皆さんの才能もあったと思いますが、「松岡メソッド」の有効性が証明されたと言えるでしょう。

 青木先生は授業で、次の2つの事を特に強調しているとか。

 

【1】「そのキャラクターから見えるもの以外書くな」

【2】「説明するな。具体的に描写しろ」

 

 この2つです。

 作者は作品世界の設定をすべて分かったうえで書いている「神様」なので、登場人物の1人から見えている世界というものに鈍感になりがちです。そうなると読者は作者の「作為」を感じる。「すでにある予定表をなぞらされている」と読者に思われたらオシマイなのです。

 同じことについて松岡先生のほうは、『小説家になって億を稼ごう』の中で実例をあげて説明しています。

 

◇身勝手な人だ、と莉子は思った。だが小笠原自身は、特に気にしていなかった。

◇身勝手な人だ、と莉子は思った。黙って小笠原をじっと見つめる。まるで意に介さない表情がそこにあった。

 

 どっちがいいでしょうか?

 そうです。

 上が「悪い例」。下が「良い例」です。

 「悪い例」では、莉子からは見えるはずもない、「小笠原が自身の身勝手さを気にしていないこと」を作者が強引に「説明」しています。

 「良い例」では、莉子に見えることだけを書いて、結果的に小笠原の無反省さを読者が感じるように「描写」しています。

 小説を書いてみたいと思う人は、「想造」の技法を試してみてはいかがでしょうか。