tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

作家になりたい人へ プロデビュー26の秘密 【その24】自分自身が読みたい作品なのか

 「とにかく、自分が読みたい作品を書いてみる」

 (岬 鷺宮『読者と主人公と二人のこれから』電撃文庫

 

 この作品の「あとがき」に、作者の岬先生が、こう記しています。あらすじを紹介しますね。

 

 他人との関係に後ろ向きな細野晃(ほそのあきら)。彼にとっては高校入学式後の最初のホームルームでの新しいクラスメイトたちの自己紹介にそれほど関心はない。自己紹介が進む間も、彼は1冊の小説を見返していた。それは何度も読んだ愛読書で、題名は『十四歳』とあり、主人公は14歳の少女・トキコである。彼は、友人など作らない、トキコの物語を読んでいれば他には何もいらないとさえ考えていた。

 自己紹介は出席番号順だ。晃の番になる直前、なんだか印象の薄い女子が壇上に立った。

 彼女はこう名乗った。

 「柊時子(ひいらぎときこ)です」。

 小説の主人公と同じ名前だと思った晃は、壇上の時子を見て、時が止まったような錯覚に陥る。

 物憂げに伏せられた、黒目がちで切れ長の目。

 ボブヘアーの黒髪と、細い首筋。 

 彼の手の中にある『十四歳』の表紙に描かれた「トキコ」とそっくりだったのだ。

 姉がいて、中学では文芸部で、ヒスイの髪飾りをつけていて…という細かい点まで同じ。そして何より、どこか気高く寂しげな気配が、トキコそのものだ。

 でも、小説のヒロインが現実世界に出てくるなんて、ありえない。

 そうと分かっていながらも、その後、晃は時子に「昔の文学とか好きそうだよね」と話しかける。小説のトキコがそうだったからだ。

 小説の知識をもとに話しかける晃だったが、時子は急に晃の手を引き、校内の人気のない場所に引っぱっていった。

 「……読んだの?」

 時子は、『十四歳』は彼女の姉が書いた小説であること、主人公のモデルは自分であることを告げた。でも、恥ずかしいので、このことは内緒にしてほしいと頼んできたのだった。

 出会うはずがなかった「読者」と「主人公」。2人はこれから、どうなるのか。

 

 こんなお話です。

 設定に意外性があって、いいですね。

 ファンタジーでもないのに、小説のヒロインと現実に出会えるなんて、すごく興味をそそられます。しかも晃にとって時子は理想の女の子なんですから。

 それで今回、僕が言いたいのは、この物語は、まず岬先生自身が読みたいと思う作品だったということです。

 だからこそ、読者にとっても、読みたい作品になるのです。

 人間の感じ方というのは、そう大きくは違わないものです。

 作った本人が食べて美味しいと感じる料理は、お客さんが食べても美味しい。

 だから、「こんな本があったら読みたいな」「こんな小説があったら、ワクワクして読めるのになあ」と思うことがあったら、そういう作品を自分で書いてみましょう。

 マーケティングというか、世間の人の好みを調べるというのも大事ですが、自分の好みに徹底してこだわるというのも、一つの方法です。

 岬先生は「あとがき」で、本作は電撃小説大賞に応募したものの、1次審査落ちした作品だったという事実を明かしています。他の作品でデビューした後、クオリティを高めて、みごとに本として刊行できたわけです。

 だから、結果はどうであれ、文学賞やコンクールに応募するのは、いいことですね。

 1次審査にも引っかからなかったとしても、チャレンジしている以上「0点」ではないわけです。

 その賞の入選基準が80点だとすると、5点なり10点なり、点数は得ています。もしかしたら79点だったかもしれない。

 その後も書き続けて腕を磨けば、過去の落選作の「光っている部分」を膨らませ、失敗した部分を改善することができます。

 当ブログの前回【その23】で取り上げた松岡先生は、「2作目が書けない作家は少なからずいる」ことを指摘しています。デビュー作が生涯唯一の作品になってしまうことも多いので、2作目、3作目が出せるよう、いくつかの作品をストックしておくことは大事です。

 「毎年1篇は、どこかの文学賞に応募する」という目標を立てて、頑張ってみてはどうでしょう。そうすれば、何年後かにデビューできた時点で「手を加えれば本になる作品のストックが他にも何本もある」という状態をつくることができるでしょう。