tadashi133’s diary

実用エッセイや、趣味のエッセイを連載。

作家になりたい人へ プロデビュー26の秘密 【その12】いちばん書きたいのは何か?

 一生に一度、たったひとつの物語しか書けないとしたら、なにを書くのか。

 (野村美月下読み男子と投稿女子ファミ通文庫

 

 これは小説のなかの言葉。

 平凡な高校生の青は、出版の仕事をしている朔太郎から、アルバイトを頼まれる。それは、ライトノベル新人賞の「下読み」であった。有名作家が選考するのは最終審査だけで、応募された大量の原稿は、まず「下読み」の人たちによって「一次選考通過」か「落選」かに選別されるのだ。青は応募作を丁寧に読んで、ボツ作品にも親切に助言。やがて青が「A」をつけて上げた原稿は受賞確実だと社内で評判になっていった。

 そんなある日、青は応募原稿のなかにクラスメイト・氷ノ宮氷雪の名を見つける。氷雪は透き通る白い肌と冷たい瞳を持つ、知的な美人だ。いつも冷静で、“氷の淑女”という印象の、近寄りがたい存在だった。だが氷雪の原稿は『ぼっちの俺が異世界で、勇者で魔王でハーレム王』という残念なタイトル。チープな擬音語や巨大フォントがやたら出てくる、ぶっとんだ作品だった。

 氷雪に直接何かを伝えるわけにはいかない。高校生の青が下読みをしていることや、氷雪の原稿を読んだことは秘密にすべきことだからだ。ところが学校で氷雪が書きかけているトンデモ原稿を男子が見つけてしまった。このままでは氷雪が笑いものにされてしまう。青は「それ書いたのおれだ」と、彼女をかばった。

 このことがきっかけで、青は自分が下読みをしている事実を打ち明ける。すると、「一度でいいから一次を通過したい」と切望する氷雪に頼まれ、放課後、次回作執筆のアドバイスをすることになった。2人は、だんだんと距離を縮めていく。

 これはフィクションですが、下読みを通して青は「ダメ原稿」の共通点を次のように感じています。

 

 言葉足らずな文章、強引な展開、性格がころころ変わるキャラクター、延々と続く無駄な会話。

 

 これは実際、そうでしょうね。

 これを逆転させると、優れた小説の条件にもなります。

 良い小説には「適切な状況説明、自然な展開、性格に一貫性のあるキャラクター、過不足のない会話」が備わっていると言えるでしょう。

 青は「文章がシンプルで、単語の選択が的確で、頭にするすると入ってくる」ような原稿に出会ったとき、「この人は、うまい!」と感じています。

 作家志望、文筆家志望の人は、この小説を読むと勉強になるのではないでしょうか。

 さて、冒頭の一文は、放課後、他の生徒が来ないような喫茶店で氷雪と2人きりとなった青が、彼女にアドバイスした内容です。

 青は氷雪を、こう誘導します。 

 

 ノートと筆記用具を出して。今から五十数えるから、そのあいだに、氷ノ宮さんが一番書きたいことを、箇条書きしてみて。どんなことでもいいから。ひとつでも多く。

 

 これは、僕たちにも今すぐできる方法です。小説でも、エッセイでも、どんな文章でも使えるテクニックでしょう。

 時間制限は3分。

 「自分が本当に書きたいこと」を紙に書き出す。

 それが、あなたが書く作品の「中核」になることでしょう。